『 望郷  ― (2) ― 』

 

 

 

 

    ドンドン ・・・ !

 

書斎のドアが 勢いよく叩かれた。

「 ? なにごとかね ・・・ 」

さすがの博士も 少し驚いて本から顔を上げた。

 

「 博士〜〜〜 博士!  ちょっといいですか〜〜 

 

ドアの外で ジョーが ― 叫んでいる。

 

「 なにかあったのか ・・・  おい どうしたね 

 お前にそんなに叩かれては ドアが参ってしまうよ 」

 

     カチャ ・・・ 

 

いつだって鍵なんぞかけたことがないドアは すぐに開いた。

 

「 博士 博士〜〜〜 教えてください! 

 青い手紙って どこで買うんですか??  コンビニで売ってます?

 住所の書き方 教えてください!

 下の道のポストに入れれば フランスまでとどきますか?? 

 代金って ○○ペイ で払えます?  

飛び込んできたジョーは 矢継ぎ早に質問してきた。

「 ・・・ あ ・・・ ? 」

「 ですから!  青い手紙 です! 」

 

   ぱし。  彼は握りしめているレターを 振り回す。

 

「 おいおい ・・・ それは さっきポストに入っていた

 エア・メイル だろう ? 」

「 えあ めいる? 」

「 ・・・ もしかして 知らんのかい 」

「 初めてみました。 」

「 は あ ・・・ 時代は変わったのう〜〜〜 」

「 これ ・・ メール なんですか???

 ・・・ 固形e−mail ですか?? 」

「 手紙じゃよ 手紙!  フランソワーズから来たのじゃろうが 

「 フランからですけど ・・・ これも手紙なのかあ 」

「 お前なあ 手紙くらい受け取ったこと、あるじゃろうが 」

「 あ〜 なんかの広告か 請求書くらい かなあ 

 だってラインで済むでしょう? ふつ〜 」

「 それはそうだが ・・ それは お前のところに

 遥か仏蘭西から 空を超えて飛んできたのじゃよ・・・

 彼女の手書きの文字もいいじゃろうが 」

「 え ええ・・  フランって すっげキレイな字、書くんですよ

 ・・・ 見ます?? 」

「 彼女の字がキレイなのは 知っておるよ。

 時々 ワシの手紙の清書なんぞ手伝ってくれるからな 」

「 清書 ・・・?  へ え〜〜〜 」

「 ジョー。 手紙を書いた経験 ・・・ あるのかね? 」

「 え? あ〜〜  ほんチャンのは ないですねえ〜

 学校で書かされただけ かなあ 」

「 そう なのか・・・ 」

「 えへ ・・・ ぼく 生まれて初めてもらった自分宛の

手紙 なんです。 フランからだし〜〜

 あ〜〜〜 これ もう 宝モノだあ〜〜〜 」

ジョーは無邪気にエア・レターを 撫でている。

「 ・・・ それは 本当なのかい    」

「 はい。  あ〜〜 フランの字 って優しいなあ〜〜〜 」

彼の満面の笑みをながめ 博士はなんとも複雑な気分になってきてしまった。

 

   近頃のワカモノは 手紙 を使わんのか ・・・

   

   ・・・ そういえば メンバー達への連絡は

   全てメールだなあ ・・・

   世界中に散っておるから 仕方ないが ・・・

 

   ふうむ・・・ ラブ・レターなんぞ

   書いたこともない のか ・・・   

 

「 えへへ〜〜 ぼくのお宝 だなあ〜〜〜 

 ふふふ〜〜ん 枕の下にいれて寝〜ようっと♪ 

もうジョーは 絵に描いたような < るんるんきぶん > である。

「 よかったのう  で なんだって?

 フランソワーズは元気に過ごしておるのだろう? 」

「 はいっ  久し振りのパリでのんびりしています って! 」

「 ほう それはよかった 」

「 で 博士! 返事ですよね! 既読・返信 はマジ、必須でしょ 

「 あ ああ そうだが 

「 それで! この青い紙、どこで売ってるのかな〜〜って

 思って ・・・ コンビニにありますか? 」

「 さ ・・・あ・・・?  昨今、コンビニには置いてないだろうよ

 それより文房具屋や大きな書店にあるのではないか 」

「 え  文房具屋??  ・・・ この町にないかも ・・・

 小学校の前に ノートや鉛筆、売ってる店、あるけど

 あそこで この青い紙 みたことないですし 」

「 すぐに返事を書くのかね? 」

「 はい!  今日出せば明日とどきますよね? 」

「 おいおい〜〜 フランスまで飛行機に乗せて運んで行くのだぞ? 」

「 え・・・ じゃ じゃあ ジェットに頼んだ方が速い・・・ 

 いや だめだよ〜〜 中身 見られてたくないし〜 」

ジョーは 大真面目に悩んでいる。

「 ・・・ ああ エア・レターなら ・・・一通くらいまだ 

 引き出しに入っている と思ったが  多分 」

 

   ごそごそ ・・・  

 

博士はリビングに置いてある共有のデスクの引き出しを探った。

そこは共有のパソコン置き場 なのだが 実際に使うのは

博士とフランソワーズ、ピュンマくらいなものだ。

ジョーやジェットは ほとんどスマホしか使わない。

 

「 ほれ  あったぞ 

発掘された 青い紙 は端っこがすこし撒くれていた・・・

「 わ あ〜〜〜 ありがとうございます!

 ・・・ あのう〜〜 どうやって書くのですか 」

「 住所か?  フランソワーズが書いてきた通り

 書けばよいよ。 」

「 あのう ・・・ ぼく このナナメった続き字 ・・・ 読めないんです 」

「 は  あ ・・・??? なんだって? 」

「 だから この・・・ ねろねろ〜〜〜っていう字、

 知らないんです。 」

「 ・・・ 本気かい?  日本では中等学校から英語を学習する、

 と聞いておるぞ? 」

「 そりゃ ね。 でも こういう字、習ってないんです。 」

ジョーはどうやら  筆記体 を学習していない世代なのだろう。

「 ・・・ なんということか ・・・・

博士は驚愕しつつも フランソワーズの手紙の住所を

ささささ・・・っと ブロック体で書いてくれた。

「 わ〜〜〜〜 ありがとうございます〜〜〜 

 えへ ・・・ なに 書こうかなあ〜〜〜

 あ 温室のいちご 豊作です とか ・・・ 」

「 おいおい・・・ 帰ってきてほしい 一日千秋の想いだ とか

 書いてやれ 

「 え?  いちにちせんしゅう ってなんです? 

 張大人の国のヒトの名前ですか? 」

「 お前さんの国の言葉じゃろうが! 

 ・・・ あとで辞書を引いておけ 」

「 はあい ・・・ めんどっち〜な〜  

「 なにか?? 」

「 い い〜〜え なんでも ・・・ 

 あ  今度、 裏庭に畑、作ってみたいんですけど いいですか 

 大根 とか ネギ、植えて〜〜〜 採れたて、激ウマだと・・・  」 

「 おう いいぞ。 温室モノも美味いなあ 」

「 ですよね〜〜 なんでも採れたてって最高〜〜 」

「 そうそう この前の ほれ・・・ ごった煮カレー。

 あれ とてもウマかったぞ〜〜〜 」

「 え 本当ですか??? へへへ 冷蔵庫に残ってた

 萎びナス とか 温室で熟し過ぎたトマトとか ・・・

 そうそう大根なんかも入れちゃったんですけどね 」

「 いやあ いい味じゃった。 

 ジョーも料理の腕を上げたなあ〜 と思ったよ 」

「 えへへ ・・・ 嬉しいなあ 

「 フランソワーズが帰ってきたら びっくりするぞ。

 さあ さっそく返事を書くのだろう? 」

「 はい!  ・・・ フランって すごいですよねえ・・・

 こんなキレイな字で 日本語で 書いてくれてて・・・

 ぼく フランの国の言葉、全然書けないもんなあ 」

「 ・・・ 彼女の努力はすばらしいよ。 

 まあ お前も料理の腕を磨いておけ。 

「 はい。  いろいろね スマホで調べてます。 」

「 うむ うむ  ありがとうよ 頼むな。  

「 任せてください!  あ そうだ・・

 博士  虫除けの装置 つくれます? 」

「 ?? 虫? 作物の害虫駆除か? 」

「 いえ ぼく 無農薬栽培めざしてるんで・・・・

 夏の虫です〜 ぷ〜〜〜ん・・・って来るじゃないですか 」

「 ああ 蚊の駆除かい 」

「 はい。 一発で蚊の寄り付かなくなるすぷれ〜 とか 

「 ふふん  ・・ お前さんの国には すでに

最強の武器があるじゃないか 」

「 さいきょうのぶき?? 蚊に、ですか? 」

  おう、と博士は応じると テーブルの下に屈みこんだ。

「 ?? なんです それ。 ウチにあるんですか? 」

 

  ごそごそ・・・

 

「 これさ。  これが 鉄板! 」

 

   でん・・・ とジョーの前に鎮座したのは  蚊取りぶ〜さん。

 

「 え 蚊取りぶ〜さん が最強の鉄板?? 」

「 ぶ〜さん ではなくて。 いや これも最強だが。

 問題は その中身だ。 

 

   ずむ。 博士の手には半分燃えた緑色の渦巻が。

 

「 ・・・ 蚊取りせんこう が・・・? 」

「 そうじゃ。 これは除虫菊という植物由来の製品で

 副作用は ない。  そして ほぼ全ての蚊は落ちるか 逃げる。 」

「 あ〜 それは そうですけど・・・

 なんかこう 〜〜  しゅば〜〜〜っと一発 皆殺し みたいな 」

「 化学薬品は 環境と生物に悪影響を及ぼす。

 ジョー 畑仕事の時には 携帯用の蚊取りぶ〜さん を作ってやるから。

 それを腰に下げるんだな 」

「 ・・・ うへえ ・・・ 」

「 では 早速作ってくる。  

「 は はあい ・・・ 」

博士は 颯爽と足取りも軽く書斎に行ってしまった。

 

     蚊取りぶ〜さん かあ ・・・

  

     ぼくはさあ 刺されることはないけど

     やっぱ ぷ〜〜〜ん ってくると

     鬱陶しいんだよなあ ・・・

 

     博士は 刺されないのかなあ

 

「 そりゃ・・・ ぼくだって ぶ〜さん、好きだけどさあ ・・・・ 」

ジョーは 蚊取りぶ〜さん を改めてしげしげと見つめるのだった。

「 この緑のぐるぐる・・は 植物由来なのかあ・・

 なんか化学薬品を固めたんだと思ってた・・・

 あ〜 でもさあ あのちっこいマット入れたりする方が

 効くよ〜な気がするけど・・・  

ま いっか。  つん。 彼は蚊取りぶ〜さんを突っついた。

「 そうだよ〜〜〜  フランに えあ・れた〜 書くんだった!

 えっと えっと〜〜〜 なんて書こうかなあ・・・ 

 えへへ らぶ・れた〜 って初めて書くよ〜〜ん♪ 」

博士からもらったエア・レターを広げる。

改めて向かい合ってみると  ―  言葉が出てこない。

「 ・・・ う〜〜〜  ふらんそわーず様。

 お元気ですか。 えあ・れた〜 ありがとございました。

 ・・・ あと  なに書けばいいんだろ・・・ 

ボールペンは ちっとも進んでくれないのだ。

「 え〜と え〜と  ・・・ 毎日 なんとなく雨が降っています。

 傘 必須って天気予報でいってます。 そちらはどうですか?

 ・・・ う〜〜ん  パリも梅雨なのかなあ  」

 

  ふう〜〜〜  溜息ばかりが連続してしまう。

 

「 らぶ・れた〜 って どうやって書くんだろ?

 ・・ 好きです! ぼくはフランソワーズのことが好きです。

 ああ〜〜 これじゃ 小学生の作文だよ〜 ・・・ 」

 

くしゃ・・・っと紙を丸め ・・・ ようとして 手が止まった。

「 やっば〜〜〜 コレ 一枚しかないんだっけ〜〜 

 えっと えっと えっと ・・・ う〜〜〜

 近況報告だっけ。  温室の手入れをしました。

 イチゴ も トマト も ちゃんと採れて、ごはんに美味しく

 食べています。  きゅうり と なす も植えました。

 ぬか漬け を作るつもりです。 めろん も植えました。

 美味しい実が生るのが 楽しみです。 

 ツナ缶つかってオムレツ つくりました、おいしかったです。

 うどんって知ってますか? 日本のぱすたで サラダうどん なんかも

 美味しいです 」

 

・・・ ジョーは小学生の < 夏休みの日記 > みたいな

文章を連ねていた・・・

 

「  ・・・ で ぼくは フランが帰ってきてくれるのを

 まってます。 一緒に おいしい めろん をたべましょう。 」

 

エア・レターはたちまちいっぱいになってしまった。

「 ・・・フラン、笑わない・・・よね?

 最後、 どうしよう? あ そだ!

 えっと  会いたいです、ふらんそわーず様。 ジョーより っと 」

ふう〜〜〜 ・・・ 特大のため息をつき、彼は慎重に

青い紙を封筒に入れた。

宛名は 一番始めに 博士が書いてくれたものを丸写ししてある。

「 あ 一応 < 様 > つけないとな〜〜 シツレイだよね。

 うん・・・ これでよしっと。

 あ ・・・切手!  いいや 買い物ついでに駅前の〒局によれば・・・

 フラン ・・・ 読んでください〜〜 」

 

     ちゅ。  

 

ジョーは こっそり ( 誰も見てなかったけど ) 書き上げた手紙に

キスをした。

 

「 あ  晩飯の支度! ・・・ なににしよっかな 〜〜

 あ そうだ! この前 めっけたサバ缶! あれ 使ってみよっと 

 そうそう 手羽先、買ってあっただった〜〜 

 ま 野菜の買い出しもあるから ・・・ やっぱ自転車だな〜 

 

数分後 今日もピンクのままちゃり が ギルモア邸前の急坂を

疾走していった。

 

 

 ― その日の晩御飯も 大成功〜〜♪

 

食後のまったりタイム、博士とジョーは サツマイモの茶巾絞りを

味わっている。

「 ・・・ あのう・・・ 味 どうです? もっと甘い方が?? 

「 ん〜〜〜 んん いやいや この味がウマイ!

 これは サツマイモだろう? ちゃんと芋の味も残っていて

 それでいて 立派な和菓子になっておる。

 ・・・ん〜〜〜 ウマい!  ジョー すごいなあ 」

博士はもう手放しでほめてくれる。

「 えへへ ・・・ そ〜ですか 嬉しいなあ〜〜

 これ ね  八百屋のおばあちゃんが教えてくれたんです。

すっご〜〜く美味しそうなサツマイモがあって・・・

焼きいもにします〜〜 って言ったら おばあちゃん が教えてくれました。 」

「 ほう〜〜〜  これも伝統の和菓子なのかのう〜〜

 いや ワシはこのままが好きじゃが これに生クリームでもかければ

 立派なスウィーツだぞ 

「 あ そっかあ〜〜 ・・・ フラン 食べてくれるかな ・・・ 」

「 そりゃ勿論☆  栗やら芋は女性のお気に入りじゃからな 」

「 そうなんですか??   そっか〜〜〜  

 えへ ぼくもおいし〜と思います 

 

二人はぺろり、とデザートを平らげた。

 

「  ジョー 手紙の返事、出したのかい 」

「 はい!  駅前の郵便局のポストに入れてきました! 

 フランスでも 円 なんですね〜〜 」

「 は?? 」

「 だって 切手。 郵便局のヒトに聞いたら ふつ〜の日本の切手、

 だしてくれましたよ?  

「 そりゃ この国で投函するのじゃから・・・

 フランソワーズからの手紙を見て見ろ。 ユーロの切手が

 貼ってあるじゃろうが 」

「 ・・・ あ〜〜〜 これかあ〜〜〜 このヘンな記号が

 ゆ〜ろ なのかあ 」

「 ・・・ 学校では習わんかった か ・・・ 」

「 はい!  あは でもね〜〜 さっきラインで フランにね〜

 手紙だしたからね〜〜って。 へへへ 楽しみ〜〜 」

「 ・・・ はあ ラインで か 」

「 はい。 あ そうだ、博士〜〜 今晩のオカズ どうでしたか? 

「 おう 今日も美味かったぞ〜〜  ジョー、ますます腕が上がったなあ 」

「 えへへ・・・ 缶詰使ったんですけどね  

 一緒に使った野菜は えっと・・・ なんてったなかなあ〜 

 あ 三浦半島の野菜 だそうです 」

「 ほう〜 地元産かい 

「 今朝 採れたて、って言ってました 」 

「 ふむ ふむ ・・・ ここいらの地域は本当に穏やかで

 よい土地じゃなあ・・・ 」

「 なんでも美味しいし♪ 」

「 ジョー お前の生まれ育った地域は いい処じゃよ うん・・・

 ワシはなんだか 故郷のような気がしてきた 

「 ぼく達 ここが このウチが 故郷だと思ってます 博士。 」

「 そ そうかい ・・・ 」

「 だから明日もオイシイもの、食べましょう! 」

「 そうじゃな  うん・・・ そうじゃなあ 

 皆の故郷 ・・・か。 そう感じてくれたら嬉しいよ 」

「 思ってますよ 皆! 

 え〜と ・・・ 熱いお茶 淹れますね〜 」

「 ・・・ ありがとうよ 」

 

   とぽぽぽぽ・・・ 香高いお茶が 穏やか晩を締めくった。

 

 

そんな風に 梅雨時を過ごし、暑い夏もようよう超え 

朝晩には涼風が立つ頃となった。

 

ジョーは わりと頻繁に < 青い手紙 > を書き

わくわくしつつ 投函していた。

・・・ 相変らず 食べ物の話題 ばかりだったけれど ・・・

フランスからは ちゃんと返事が来たけれど 季節の挨拶程度の

文面だった。

「 へえ〜〜〜  パリも暑いのかあ〜  

フランの好きなあずき・ばーとかあるのかなあ・・・  

 < 親愛なるジョー > だって♪ えへへ〜〜〜 やったネ♪ 」

文通、それも海外の事情に全く疎い彼は 

文頭の Dear Joe に 毎回感激し どの手紙も大切に大切に

引き出しの中に仕舞っていた。

 

 

暑熱の日々の峠を超えると 八百屋や鮮魚店、精肉店の店先にも

新しい顔が並ぶようになった。

 

    キキキ −−−− ッ !

 

「 わほ〜〜い もうカボチャが出てたよ〜〜〜ん♪ 」

ジョーは ご機嫌ちゃんで自転車を降りた。

「 ふんふ〜〜ん♪ なににしよっかな〜〜〜

 煮ても焼いてもオイシイよなあ〜〜  

 あ 今年はサンマ、 いっぱい獲れるといいなあ 」

よいしょ・・・っと 荷台から大荷物を降ろす。

今日は生活必需品の買い出しで ついでにカボチャを買ったのだ。

 「 お米もオイシイのがとれるよね〜 ふんふん〜〜  あ? 

 ライン?  え〜〜 誰かなあ  」

ふと 気づいてスマホを腰のポケットから引っぱりだす。

「 うん?  あ〜〜〜 フランからだあ♪   元気かなあ 

 

      え  ・・・?!!!

 

  「 ジョー ただいま!  もうすぐウチです♪ 」

 

うっそ・・と 彼は何回も読みなおし  

めちゃくちゃ慌てて  マジ???  と送ったが ― 既読にならない。

 

「 ・・・ うっそ〜〜〜〜 ★☆☆ もうすぐ って もうすぐってこと??

え 〜〜・ 駅の辺りなのかなあ・・・ っていつ帰ってきだんだよ〜

 わ わ〜〜  晩ご飯!  なんにしよ???

えっと・・・食糧庫にあるのは〜〜 ツナ缶と豚の薄切りだけ ・・・

野菜! 野菜は 〜〜〜 大根と 今 買ってきたカボチャと〜〜〜

 あとぉ ジャガイモ タマネギ・・・だけ??

 温室! 温室になんかあるはず〜〜〜〜   

あ! 博士〜〜〜〜 フランが帰ってきますよぉ〜〜〜 

ジョーは 声を上げつつ玄関に飛び込んだ。

 

 

「 ただいま戻りましたァ〜〜〜 」

 

30分後 本当に 本当に フランソワーズは ギルモア邸の

玄関に 立っていた。

 

「 わ〜〜〜 お帰りぃ〜〜〜 フラン ! 」

「 おお おお 元気かい 」

「 博士  ジョー  今 戻りました  

「 フラン〜〜〜  ね ちょっち待っててね〜〜 

 すぐに晩御飯だから! 」

ジョーは エプロン姿で腕まくりしている。

「 まあ ジョー・・・ なんだかとても似合っているわね?

 あ あのね 張大人 と グレートも後から来るそうよ 」

「 え!!??  う〜〜〜〜 わかった〜〜〜

 な なんとかする!  

 博士、 フランに冷たい麦茶と あずき・ばー 出してあげて

 くれますか? 」

「 おう 了解じゃ 」

「 ジョー ・・・? 」

「 では ぼくは晩御飯の準備に没頭します! 」

ちゃ・・・っと敬礼すると 彼はキッチンに消えた。

 

 

 ― そして その日の晩御飯は〜〜〜

 

温室の熟れたトマトやらピーマン、ジャガイモ タマネギ そしてツナ缶で

スパニッシュ・オムレツ。 ケーキみたいに大きなお皿に盛った。

香ばしい匂いは 裏の畑でどっさり採れるナスに豚肉と大葉を挟み

焼き肉のタレでじゅ〜〜っと焼いたモノ。

あとは インゲンの胡麻和え、そして 大根と豚バラの煮物の常備菜が

並んだ。

 

「 うわあ〜〜〜 すごいご馳走ね ! ジョー 」

「 えへ  ウチにあるものばっかりなんだけどぉ 」

「 すごいわあ〜〜 ジョーってば・・・ 」

「 ジョーはなあ しっかり我が家の料理人なんじゃよ 」

「 ほんとう・・・ 」

「 さ みんな たべて 食べて〜〜〜

 大人〜〜 グレートも 皆で御飯♪ だよ〜う 」

 

わいわいと 久々に食卓が賑やかになった。

張大人は 常備菜の煮物をゆっくりと味わっている。

「 ジョーはん。 ・・・ これ どないしたん 」

「 え? あ〜 それ・・・ 大根と豚バラを炒めてから煮込んだんだ〜

 へへ・・・ 博士も気に入ってくれてさ ウチの作り置きオカズ 」

「 ものすご・・・・ ええお味や〜〜 最高やで 」

「 え ほ 本当??  

「 ほんまやで。 ワテの店でも出してええか? 」

「 もっちろん〜〜 うわあ〜〜 めちゃ嬉しい♪

 あ そうだ デザートもあるんだよ〜〜 」

 

ガラスの器で運んできたのは 南瓜の甘煮に生クリームを乗せたもの。

クリームには ちょこっとブランディを垂らしてみた。

 

「 まあ・・・ キレイ・・! 」

「 ん〜〜 これは洒落た味だなあ 」

フランソワーズも グレートも 気に入ってくれた。

 

     えへへ ・・・ やったぁ〜〜〜〜〜♪

 

 

 

 

  じゃーーーー  カチャカチャ・・・・

 

食後 並んで後片付けをしつつ ジョーはこそ・・っと聞いてみた。

「 ね フラン あのう〜〜〜 手紙 ありがと♪  」

「 え ああ そうね、ジョーもたくさん ありがとう〜 」

「 えへ・・・ なんか すっげ嬉しかった ぼく。

 フランは?  あのう ぼくの手紙、 なんかつまんなくて・・・

 ごめん ・・・ 

「 え どうして?? わたし、ジョーの手紙で

 ・・・ 帰ってきたの。 あなたの手紙が 呼んでくれたわ 」

「 ・・・え ・・・?  

 

      わは ・・・

      会いたいな〜〜って気持ち 通じたんだ?

 

      えへへ・・・ やったぁ〜〜♪

 

ジョーは お皿を放り上げたい気分だった  が。

 

「 わたし!  ラディッシュ じゃなくて だいこん が

 食べたくて。  パンプキン じゃなくて かぼちゃ が

 食べたくて 食べたくてたまらなくなって〜〜〜  

 ねえ ジョー?  わたし わかったの。 」

「 え ・・・ な なにが ・・・? 

「 あのね! わたしの故郷は  このお家だわ 」

「 あ  は ・・・ ? 」

「 わたし だいこん や かぼちゃ が 食べたくて食べたくて

 ウチの温室のトマトやイチゴが食べたくて・・・

 ジョーの手紙を読むたびに もう〜〜 

 < ふるさと > に帰りたくてたまらなかったの!

 そう ホームシックになっていたんだわ。 」

「 そ そう・・・? 」

「 ええ!  もうね はやくこのお家でご飯が食べたくて・・・

 あ〜〜〜 もうほっんとうにシアワセだわ わたし。 」

フランソワーズは 極上の笑顔をジョーに向けた。

 

「 ね! ジョーのご飯 ・・・ 最高〜〜〜♪ 」

 

     あ  は  ・・・

     ・・・ なんか ぼく ・・・

 

     めっちゃフクザツな 気分 

 

     ・・・ シアワセ だけど。

 

 

 

**********************      Fin.      *********************

Last updated : 07.14.2020.                 back     /     index

 

*********    ひと言   ********

馴染んだ食べ物って 大事ですよね〜〜〜

望郷の念 って あれが食べたいなあ〜〜 って

気分が すごく含まれている  と思いません?

ジョーくん おさんどん 上手そうです (^◇^)